5. 初期構造の作成方法
5.1. 分子構造の作成
以下のいずれかの方法を選択する。
構造式を 構造式 で描画し読み込む。
SMILES形式の文字列を SMILES から読み込む。
各種形式(PDB、mol、mol2、SDF、CIF、xyzなど)のファイルを ファイルをインポート またはメインウィンドウへのドラッグアンドドロップで読み込む。
3次元の分子構造をメインウィンドウ上で直接モデリングする。
構造をリセット で初期構造に戻り、適宜 編集メニュー から必要な操作を選択する。
ある程度目的の分子に形状が近づくように、初期構造(炭素原子と水素原子が結合したもの)に対し、 フラグメントで置換 を実行する。
芳香環が隣接した構造は 環構築 を実行する。
不要な部分構造を削除したい箇所では グループを削除 を実行する。
水素原子を付加したい箇所では 選択原子に付加(1原子)、(2原子)、(3原子) を実行する。
原子の種類を変更したい箇所では 元素を変更 を実行する。
化学結合を作成したい場所では 結合を付加/変更 を実行する。結合の種類の変更も同じ操作で行う。
ある程度妥当な原子配置に調整するために 簡易構造最適化 を実行する。(原子数が小さい場合に限る)
明示的に部分構造を回転させたい場合は グループ編集 を実行する。
様々な配座を取りうる分子の場合は 配座探索(Balloon) を実行し、エネルギーの低い構造を選択する。
ポリマーの場合は、直接分子全体をモデリングしても良いが、 ポリマーの作成 の方法を使う方が効率が良い。
5.2. 点電荷の割り当て
MD計算で必要な点電荷をWinmostar上で設定する方法を紹介する。まず 分子構造の作成 の方法で1分子を作成した後、以下の方法で電荷を割り当てる。割り当てた電荷は ラベル/電荷 を変更することで表示し確認することができる。
なお、水分子には力場割り当て時に選択した水モデルの電荷の値が無条件で適用されるため、明示的に電荷を設定する必要はない。
一部の原子の電荷を平均化またはシフトしたい場合は グループの電荷を平均化 または グループの電荷をシフト を使用する。
AM1/BCC電荷またはGasteiger電荷を割り当てる。
AM1-BCC/Gasteiger電荷を使用 の手順で割り当てる。イオンの場合は Total charge [e] に電荷を入力する。
RESP電荷を自動で割り当てる。
RESP電荷を使用 の手順で割り当てる。イオンの場合は Total charge [e] に電荷を入力する。
GAMESSまたはGaussianでRESP電荷を手動で割り当てる。
ファイルモードで Method に ESP/RESP を選択する。イオンの場合は Charge に電荷を入力する。
にて、計算手法、基底関数を「HF/6-31G*」に設定し、Easy Setup ウィンドウを OK ボタンで閉じ、 GAMESS/Gaussian Setup ウィンドウで Run ボタンを押し計算を実行する。
GAMESS/Gaussianの計算が終了したら RESP電荷 にてRESP電荷を取得する。
MOPAC, GAMESS, Gaussian, NWChem, Quantum ESPRESSOのPopulation解析結果の電荷をメインウィンドウに読み込む。
MOPACの場合は 分子軌道, 電荷 (mgf) の手順で読み込む。
Quantum ESPRESSOの場合は
の手順で読み込む。それ以外の場合は、ログファイルをメインウィンドウで開く。
選択した原子に値を入力して割り当てる。
テキストファイル上で直接編集して割り当てる。
ポリマーの場合は、直接分子全体のAM1/BCC電荷、RESP電荷などを計算すると時間が掛かるため、 ポリマーの作成 の方法を使う。
5.3. 孤立系(気体)の作成
5.4. 低分子液体の作成
分子構造の作成 の方法で1分子の構造を作成する。
MD計算の場合は 点電荷の割り当て の方法で電荷を割り当てる。
ファイルをエクスポート からmol2またはwmm形式で保存する。
1.から3.の手順を計算したい全ての分子種に対して行う。
溶媒を配置/セルを構築 を選択する。
系内にどの分子を何分子入れるか決める。 メインウィンドウに表示された分子は Add Displayed Molecule , 水分子の場合は Add Water をクリックする。 それ以外の場合は Add File をクリックし1.から4.の手順で保存したmol2ファイルを選択する。
系内に投入する個数を入力する。
6.、7.の手順を計算したい全ての分子種に対して行う。
Solvate/Build MD Cell ウィンドウ下部の Simulation Cell にてシステムサイズを設定し、 Build ボタンを押す。
注釈
密度が高いと系の作成に失敗することがあるので、低い密度(目的の物質あるいは目的の物質に類似する物質の実験値が分かっている場合は、その値の40 %程度)から始め、 セルを変形 で密度を調整するか、MD計算を実行し圧力一定計算で目的の密度、圧力まで徐々に圧縮してください。
CygwinWM がインストールされていない、または 溶媒を配置/セルを構築 機能で配置するのが困難な場合は、 グループ編集 、 セルを作成 、 ファイルをインポート を組み合わせることでも作成可能です。
5.5. ポリマーの作成
分子構造の作成 の方法で計算したいポリマーの繰り返し単位を作成する。例えば、ポリエチレンの場合はエチレン分子ではなくエタン分子を作成する。
MD計算の場合は、繰り返し単位の状態で 点電荷の割り当て の方法で電荷を割り当てる。
分子表示エリア にて、隣の繰り返し単位と接続する原子を2か所左クリックし、 繰り返し単位登録 の方法で繰り返し単位として登録する。
作成したいポリマーの構造に応じて、ホモポリマービルダ 、 ブロックポリマービルダ 、 ランダムポリマービルダ の操作を実行する。
Tip
例えば -[AAABBB]- のような構造の場合は、一旦 ブロックポリマービルダ を使用して AAABBB を作成し、
wpo
フォルダに作成されたwpoファイル(実態はmol2形式)を再度 繰り返し単位登録 にて繰り返し単位として登録し ホモポリマービルダ を使用する。ポリマーセルビルダ の操作を実行し、シミュレーションセルを作成する。
ポリマー中に低分子成分が溶解している場合は、 分子構造の作成 と 点電荷の割り当て の手順で溶解している低分子を作成しあらかじめmol2形式で保存しておく。そして、5.の手順の後で保存した低分子成分のmol2ファイルを 分子を挿入 にて選択し挿入する。5.の手順において密度を低めに設定しないと低分子成分の挿入に失敗することがある。
5.6. 気液界面の作成
低分子液体の作成 の方法で液相を作成する。
セルを変形 にて Transform only along the selected axis と Do not change にチェックを入れ、 Set incremental length または Set total length にチェックを入れ、値を入力した後 OK ボタンを押す。
注釈
液相の構造をMD計算で緩和した後にExpandする場合は、MD計算後の構造においてシミュレーションセルの外の座標を持つ原子が多く存在するため、Expandする前に 周期境界に基づき原子を再配置 を選択する。分子系の場合は セルの内側に分子単位で再配置 、無機系では セルの内側に原子単位で再配置 を選択する。
5.7. 液液界面の作成
低分子液体の作成 の方法で片方の液相を作成する。この時、予め2つの相に含まれる全ての種類の分子についてmol2ファイルを作成しておく。
ファイルをエクスポート からmol2形式で保存する。
溶媒を配置/セルを構築 を選択する。
もう片方の相にどの分子を何分子入れるか決める。 水分子の場合は Add Water をクリックする。 それ以外の場合は Add File をクリックしmol2ファイルを選択する。
系内に投入する個数を入力する。
4.、5.の手順を計算したい全ての分子種に対して行う。
Simulatoin Cell タブで Set Lattice Constants にチェックを入れ、 Same as main window ボタンをクリックする。次に、 Box Type で「triclinic」を選択する。 Set Lattice Constants の右に、最初に作成した相のセルサイズが表示される。 Change only one direction をクリックし、 Select direction でZを選択し、 Enter density で指定密度を入力すると、x, y方向の格子定数は固定したままz方向の格子定数が自動で設定される。
Build ボタンを押す。
ファイルをエクスポート からmol2形式で保存する。
界面ビルダ をクリックする。
Cell タブの Cell 1 の Browse ボタンをクリックし、2.で保存したファイルを選択する。同様に、 Cell 2 においては、9.で保存したファイルを選択する。
Direction タブの Interval に液相間の距離を入力する。
Build ボタンをクリックし、保存するファイル名を入力してから 保存 ボタンをクリックする。
5.8. タンパク質の作成(リガンドなし)
計算したいタンパク質のpdbファイルをWinmostarで開く。
分子種によるグループ選択 の手順でタンパク以外の成分(結合水、緩衝剤、リガンドなど)をグループ選択してから、 グループを削除 の手順で選択グループを削除する。
pdb2gmxを使用 を実行する。実行前の状態で水素が付加されているように見える場合も、この処理を省略すると後ほど計算に失敗することがある。
溶媒を配置/セルを構築 をクリックする。 Add Displayed Molecule をクリックし、 Enter # of molecules で「1」と入力し OK ボタンをクリックする。 次に Add Water ボタンをクリックし、 Enter # of molecules で適当な分子数(5000~10000程度)を入力し、 OK ボタンをクリックする。その後、 Build ボタンをクリックする。
系を中性化するために 水をイオンに置換 の手順でイオンを配置する。「WARNING: The charges defined on the main window will be discarded. Are you sure you want to continue?」と表示されたら はい をクリックする。
なお、この後MD計算を実行する場合は、上記手順を実行した後ファイルを保存すると、残基情報などが適切に保存されないことがあるため、上記手順を実行後続けてMD計算を実行することが望ましい。
5.9. タンパク質の作成(リガンドあり)
計算したいタンパク質-リガンド複合体のpdbファイルをWinmostarで開く。
分子種によるグループ選択 の手順でリガンド以外の成分(タンパク、結合水、緩衝剤など)をグループ選択してから、 グループを削除 の手順で選択グループを削除する。
OpenBabelを使用 を実行する。
ファイルをエクスポート にてリガンドの構造をmol2形式で保存する。
再び計算したいタンパク質-リガンド複合体のpdbファイルをWinmostarで開く。
分子種によるグループ選択 の手順でタンパク以外の成分(結合水、緩衝剤、リガンドなど)をグループ選択してから、 グループを削除 の手順で選択グループを削除する。
pdb2gmxを使用 を実行する。実行前の状態で水素が付加されているように見える場合も、この処理を省略すると後ほど計算に失敗することがある。
溶媒を配置/セルを構築 をクリックする。 Add Displayed Molecule をクリックし、 Enter # of molecules で「1」と入力し OK ボタンをクリックする。 次に Add Water ボタンをクリックし、Enter # of molecules で適当な分子数(5000~10000程度)を入力し、 OK ボタンをクリックする。そして、 Add mol2 File ボタンをクリックし、4.で保存したmol2ファイルを開き、 Enter # of molecules で「1」と入力し、 OK ボタンをクリックする。「この分子を乱数的に配置しますか?」と聞かれたら いいえ をクリックする。その後、 Build ボタンをクリックする。
系を中性化するために 水をイオンに置換 の手順でイオンを配置する。「WARNING: The charges defined on the main window will be discarded. Are you sure you want to continue?」と表示されたら はい をクリックする。
なお、この後MD計算を実行する場合は、上記手順を実行した後ファイルを保存すると、残基情報などが適切に保存されないことがあるため、上記手順を実行後続けてMD計算を実行することが望ましい。
5.10. 無機結晶の作成
CIFファイルなどで計算したい結晶のデータを既に持っている場合は、Winmostarでそのファイルを開く。そのようなファイルがない場合は、以下の操作を行う。
結晶ビルダ をクリックする。
Crystal Builder ウィンドウ右上の以下の項目を選択する。
Lattice の Crystal System から計算したい結晶の分類を選択する。
Lattice の Space Group から計算したい結晶の空間群を選択する。 Space Group の選択肢は Crystal System によって変化する。
Lattice Constants に計算したい結晶の格子定数を入力する。
Crystal Builder ウィンドウ右下のリストに、非対称要素の原子を入力する。
Atom の欄をダブルクリックし元素の種類を入力する。
X , Y , Z の欄をダブルクリックし座標を記入する。
Add ボタンで原子を追加する。
Remove ボタンでリスト中で選択された原子を削除する。
OK ボタンをクリックして、結晶ビルダで指定した構造をメインウィンドウに反映する。
結晶にひずみを与える場合は、 セルを変形 機能を使用してください。
5.11. 無機結晶の作成(点欠陥または元素置換あり)
欠陥がない状態の結晶のCIFファイルを開くか、 無機結晶の作成 の方法で結晶構造を作成する。
スーパーセルを作成 をクリックする。 a , b , c の値を大きくし、スーパーセルのサイズを指定する(まずは各方向2程度)。最後に OK ボタンをクリックする。
メインウィンドウにおいて、点欠陥を作りたい箇所の原子または、元素を置換したい原子を左クリックし赤いマーカーが付いた状態にする。
点欠陥を作りたい場合は、 原子を削除 をクリックする。
元素を置換したい場合は、 編集操作向けの元素を選択 から変更後の元素を選択し、その後 元素を変更 をクリックする。
5.12. 無機スラブ(表面)の作成
バルクの状態の結晶のCIFファイルを開くか、 無機結晶の作成 の方法で結晶構造を作成する。
スラブを作成 をクリックする。
Miller indices (h k l) など Generate Slab ボタンより上の項目を入力してから Generate Slab ボタンをクリックする。
Generate Slab ボタン以下の項目を入力してから OK をクリックする。作成したいスラブ構造の表裏両方の原子配置が、 Surface configurations の選択肢の中にない場合は、少なくとも片方の面の原子配置が望みの構造となるようにし OK ボタンをクリックした後、メインウィンドウで グループを削除 機能を使って不要な原子層を削除する。原子層を予め厚めに作るときは、 Generate Slab ボタン上の Minimum slab size の値を大きくする。
5.13. 分子吸着表面の作成
分子構造の作成 の方法で吸着させる分子を作成する。
ファイルをエクスポート からwmmまたはmol2形式で保存する。
無機スラブ(表面)の作成 の方法で表面を作成する。
必要に応じて、 スーパーセルを作成 をクリックする。 a , b の値を大きくし、スーパーセルのサイズを指定する。最後に OK ボタンをクリックする。
スラブ表面上で分子を吸着させたい位置の直下の原子をクリック(マーク)し、 ダミー原子を指定距離に追加 をクリックする。Axisはzにし、Distanceを適当に設定しOKをクリックする。
分子を置換 をクリックする。Species=(unknown)をクリックしOKをクリックする。そして、2でエクスポートしたファイルを開く。
吸着分子を回転させたい場合は グループを回転(配向を指定) や グループを回転(数値を指定) を使用する。吸着分子を並進移動させたい場合は グループを並進移動(数値を指定) を使用する。例えば表面第一層と吸着分子内の特定原子の間の距離を調整したい場合は、まず表面第一層の原子をクリックし、次に吸着分子内の特定原子をクリックし、吸着分子をCtrl+クリックしてグループ選択します。そして グループを並進移動(数値を指定) をクリックし、 Definition をRelative coordinate between marked atomsに変更し、 Z の値を変更します。
5.14. 固固界面(粒界)の作成
無機スラブ(表面)の作成 の方法で片方の固体を作成する。
ファイルをエクスポート からcif形式で保存する。
無機スラブ(表面)の作成 の方法でもう片方の固体を作成する。
ファイルをエクスポート からcif形式で保存する。
界面ビルダ をクリックする。
Cell タブの Cell 1 の Browse ボタンをクリックし、3.で保存したファイルを選択する。同様に、 Cell 2 においては、5.で保存したファイルを選択する。
Direction タブの Interval に固体間の距離を入力する。また、 Interval の Specify interval on selected axis between outermost atoms にチェックを入れる。
Repeat タブに移動すると、3つの Suggest ボタンのうち、上ふたつ(a-axisとb-axis)が押せる状態になっている。この Suggest ボタンをクリックし、 Ratio の値(Cell1とCell2のセルサイズ比率)が1に近く、かつシステムサイズが大きすぎない行を選択し、 Set ボタンをクリックする。
Build ボタンをクリックし、保存するファイル名を入力してから 保存 ボタンをクリックする。
Ctrl+左ドラッグなどにより、片方の固体をグループ選択する。詳細は 選択メニュー を参照する。
グループを並進移動(数値を指定) をクリックし、X, Y方向にグループを並進移動させる。 三面図を表示 を有効にすると位置の確認をしやすくなる。
5.15. 分子結晶の作成
現時点でWinmostar上で単分子の構造から物理化学的に妥当な分子結晶の安定構造を生成する機能はないため、データベース等から取得した分子結晶の構造ファイルを起点とする必要がある。また、そのような構造ファイルではシミュレーションセルの境界をまたぐ分子の座標が離れており、そのような構造ファイルを直接使用してGromacs, LAMMPSなど分子動力学計算のための力場の割り当てを実行すると処理に失敗する。ここでは、力場の割り当てが失敗しないための処理方法を以下に紹介する。なお、Quantum ESPRESSOやOpenMXなど第一原理計算のみ実施する場合、以下の処理は不要である。
分子結晶の構造ファイル(CIFなど)を ファイルをインポート から読み込む。
周期境界に基づき原子を再配置 で 原子単位で再配置された構造をもとに戻す にチェックを入れ OK をクリックする。